「スベクタクルの社会、すなわち合理化された大量生産社会に対抗するためにシチュアシオニストがとった方策は、「転用=ずらし(ディトルヌマン)」と呼ばれ、それは換言すれば、ある製品を本来とは違った方法で使用することによって、使用者の主体性を回復しようとするものだった。こういった活動はコラージュやアッサンブラージュの手法を確立したダダやシュルレアリスムの影響が強いと思われるが、シチュアシオニストはその舞台を芸術の一分野としてではなく、日常生活全体ヘと拡大したという意味で意義深い。
そしてこのような眼差しはやがて都市全体へと拡がっていくことになる。彼らは計画家や資本家たちによって企図された均質で幾何学的な都市に対し何とかそれを無効化し、市民が都市全体を自分なりに「転用」する可能性を模索する。その一環として彼らは「漂流(デリーヴ)」というテクニックを編み出すのだが、これは目的もなく都市を彷徨し、敢えて回り遠をしたり、時には道路を無視してどこかに侵入したりしながら、地図には決して表現されないような都市のさまざまな心理学的効果を発見し、またそれを記述しようとする試みであった。これはやがて「心理地理学」という彼ら独自の学問体系を導くことになる。
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