1.ダーナパティズム
「主客一体」と「一座建立」
ダーナパティズム〈一座建立 〉を理念としたその物語に登場するキャストは、
「家藝公」家の代表、
「檀家」蒲生三丁目の家に作品のある人、
「観客 」作品はないが家の思想に共鳴する人による三者により構成されています。
日本のスーパーチェーンでは、バックヤードに下がる時、すべての従業員は「フロア」に対して一礼します。それは、本来客も同じでなければなりません。家であろうと店であろうと、入場する時には深く一礼します。いつまでもお金を払うからお客様は神様などというそんな卑しい発想ではいけません。客は「一座建立」という文脈において重要な役割を担うキャストなのです。
蒲生三丁目のリージョン・ルネッサンスは、共同体における習律を日常生活の市場活動を通した人間教育に求め、原点から再構築しようという考え方が通底しています。
〝蒲生三丁目の家〟では
(1)お客(観客)は、地域や家の出入りには感謝の意味を込めて「礼」を行う。
(2)お客(観客)は、近隣の住民や年長者に対して「礼」をし、敬意を表す。
(3)お客(観客)は、マナー礼に反する行為は行わない。
の三つの取り組みを始めました。
この新しいフェスティバルでは、HECPという理念の共有により、お客(観客)と「演者」の境界をとりのぞき、町が自己表現をするのを手助けします。そして、お客(観客)も作品を作り上げる重要な役割を担う一座建立のインスタレーションアートなのです。
お客(観客)と演出者の境界をとりのぞき、町が自己表現をするのを手助けするという、芸術フェスティバルの新しい側面を紹介、お客(観客)が受身で見るだけでなく、役者として― 主役や脇役として参加することを求めるからオープンなのです。
2「一見さんお断り」
京都で祇園や先斗(ぽんと)町といった花街にあるお茶屋さんのほとんどは「一見さんお断り」、すなわち誰かの紹介がなければ入ることができません。
しかし、この「一見さんお断り」というのは別に排他的だったり格式を重んじるといったりする理由ではなく、極めて合理的な理由から生まれたシステムなのです。
HECPという〝家〟は基本的には貸席業つまり、私的領域と公的領域の接合点で、自宅公共化ー「シェアリングコミュニティ」です。普段から食材を置いているわけではありません。お客が来ると、出来るもの作りますが、料理は予約に応じて近隣のお店や住民から取り寄せます。
主客一体「もてなさず」の面からも「一見さんお断り」のシステムは機能しています。言い換えればこのシステムは実質的には「会員制」の仕組みとも言えます。ただ、会員制と言っても明確な規約やルールが存在しているわけではありません。言わば目に見えない「会員制」です。たとえ規約がないと言っても、そこを訪れる多くのお客が快適に過ごせるよう、一座建立の暗黙の約束事を理解し、良識のあるマナーをわきまえた人間でなければ、〝家〟には出入りすることはできません。
これはお金持ちかどうかということは関係ありません。高額な入会金や会費でもって顧客を選別する、いわゆる「富裕層」向けの会員制クラブ等がよくありますが、これらとは趣旨が全く異なります。いくらお金持ちでもマナーをわきまえない人は女将さんからやんわりと断わられることになるでしょう。
しかし、“家”は、単に貸席業というだけではなく、地区におけるあらゆるエンターテインメントのエージェント的な役割を果たしているのです。
このように「一見さんお断り」は、〝家〟に遊びに来るお客が気持ちよく楽しく過ごせるように最高のおもてなしをするためには必要なシステムと言っていいでしょう。かつそのシステムを経済合理的に維持できるようにしている仕組みと言えるかもしれません。〝家〟には食事だけではなくて、雑貨、美術やフォーラムといった様々な文化が息づくところです。その文化を〝家〟という舞台でキャスト、そしてゲストが一体となって作ってきた歴史といえるのではないでしょうか。そういう意味では〝家〟も間違いなく芸術文化文化の一つと言っていいでしょう。
一見の一般の客に対しては“JUSTICE”という、ユニークなサービスコンセプトがあります。1995年から始まった、お客様のマナーレベルに応じて公正にサービスです。マナーレベルの高いスマートなお客のみに客層をセグメントし、家と同じように自由にくつろいでもらいたいという考え方です。また、料金面においてもご予約やノースモーキングのお客に関しては精算時においてのディスカウント、逆に、携帯電話の使用や大声での談笑などの他のお客や近隣住民ご迷惑になる行為は全てオプションチャージを設けています。また、あまりにもマナーレベルの低いお客に対しては今後のご利用を断る場合もありますが、お客はその人柄やマナー以外ー年令・性別・国籍・業界・地位等による差別を受けることはなく反対に、それらによる特典的サービスもありません。
「蒲生三丁目の家」の特色はオープンソースであるということがいえます。誰しもが自由に参加することが出来、プロジェクトを発展させていくことが可能なのです。参加者はアーチストだけではなく、学者や社会学やジャーナリズムを専門としようとしている同世代の人たちが参加し、全く一緒に行動しています。有名なタレントや文化人、大企業の社長や大学の教授だからといって全く特別扱いされることはありません。過去にもマスコミメディアがドキュメントを作りたいといってきて、私たちに強力しているので参加費は払いたくないと言ってきましたが、私たちはいろいろと話した上で彼らの参加を断りました。このプロジェクトの触媒性を保つためには、内部に特権的な人間を作ってはいけないという考え方によるものです。
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