ル・コルビュジェの休暇小屋~近代建築の巨人が最後に住んだ最小限住宅
巨匠の『終の棲家』~カップマルタンの休暇小屋
コルビュジェ作品の真髄は “サヴォワ邸” や “ラ・ロッシュ=ジャンヌレ邸” 、 “ユニテ・ダビタシオン” や“輝く都市” などに代表される作品ではなく、このカップマルタンの休暇小屋という3.66m四方(約8畳)の 「最小限住宅」 なのである。
この社会の輪転ははなはだしく乱されており、歴史的な意義のある飛躍へと向うか、あるいは破局に至るか、という選択の岐路にある。すべての生物の本能は、安息所を確保すること に向けられる。今日社会の各層で働いている人々は、もはや彼らにふさわしい安息所を持っていない―勤労者も知識人も、アッパーもロウアーも。建築の問題にこそ、今日の壊れた均衡を再生する鍵がある。 建築か、さもなくば革命か。革命は避けられる。建築の問題にこそ、今日の壊れた均衡を再生する鍵がある。
この時代の生産性の発展、人口増加や公害の発生などが問題となっている社会背景をもと に、崩れている人々の生活のバランスを建築のみが修正し、新しい社会への調和と秩序を与えることができ再び安定をもたらすことが出来るとル・コルビュジエは考えていた。
彼は「建築家は形態を扱うことで、純粋な創造として、秩序を作り出す。形態 によってわれわれの感覚に強く訴えかけ、造形に対する感情を呼び覚ます。そこに生み出さ れた関係は、われわれに深い共鳴を引き起こし、世界秩序との一致を感じさせるような秩序 の規範を与え、われわれの上や心のさまざまな動きを確定する。その時、われわれは美を感 じるのだ。」と語っている。
この休暇小屋が完成した1951年、彼は既に充分な富と社会的成功を手にしていた。普通であれば、かつて自分が建築した “サヴォワ邸” や “ラ・ロッシュ=ジャンヌレ邸” のような、またはそれを上回る規模の別荘を造ることなどいくらでもできたはずなのに、彼はこの3.66m四方(約8畳)の 「最小限住宅」 を自分と愛妻のために建築している。そして、自身の予想通り、この家で人生の最後を迎えたのである。
何も知らずにこの丸太小屋を見たなら、とてもモダン建築の巨匠が作って最後に住んだ住宅とはわからない。権威に弱い世間の評価に対して、本物かどうかを見抜く目を持った人にしかわからない究極の住宅を作る。
この小屋は愛する夫人のために作られた。コルビュジェにとって最小限の住宅における快適性の追求は無名時代に母親のために作った「小さな家」の頃から生涯にわたって追求していたテーマなのである。
普通の人間は、お金持ちになったら両親に豪邸をプレゼントしたいと考えるものだが、コルビュジェにとっての最高のプレゼントは、自分にしか作れない究極の住宅として最小限住宅を選んだのだ。
彼はまた、時代に即した合理的な住居の在り方、理想的な社会環境の実現を目指し、建築という分野のみに留まることなく広く『人間の在り方』の根本を問い続けた思想家であり、芸術家だったのである。
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